【詞章】
拍子木
音曲「大主手事」(人盗人下手より登場)
盗人
これや人盗人。
首里童盗で
那覇童引きやり、
国頭に売やり、
中頭に売やり、
高どしろ売てど、
高どしろ取てど
うまさ物すけて
うまさ物喰やり、
浮世渡やべる、
浮世楽しやべる。
今日の佳かる日や
見る人も無いらぬ、
傍らに寄やり、
傍らに立ちやり、
童待ち盗ま、
童引き盗ま。
引き合わち給れ、
引き付けて給れ。
あゝ尊と あゝ尊と。
歌「それかん節」
風車やとれば、
風つれて巡る、
友とまひて連れて、
遊び欲しやの。
盗人
あゝ、願た事、思た事、
ゑい童の来る。
先づ人形を見せかけ、
人離れ迄
すかし行かう。
ゑい童
歌「しいやぽう節」
ゑいゑい、
四月がなれば、
梯梧の花咲きゆり、
暗さある山ん、
明くなゆさ、
しいやぽう、しいやぽう。
盗人
これこれ、
たうたう、今日からや連れて
今日からや行きやり、
うまさ物呉らに、
此の仏とらさ。
たうたう、歩め歩め。
子
すだし母親に
暇乞いもすらぬ、
まかへ連れ行きゆが、
許ち給うれ。
盗人
いや、許すことならぬ
放すことならぬ。
あびゆらばあびれ、
おらびゆらばおらべ。
これ見ちやめ童。
これ見ちやか童。
子
あれやうい あれやうい、
盗人
たうたう、立て立て。
子
父親にだいんす
別れやりをすが、
又も母親に
別ると思ば。
盗人
いやいや、またまた。
おらびゆらばおらべ。
これこれ。
たうたう、歩め歩め。
子
昨日からの疲れ
足元も痛みゆり、
慈悲よ御情けに
暫し休ま。
盗人
いやいや、ならぬならぬ。
今日や夜も暮れて、
行く先も見らぬ、
あの御寺頼で、
今宵明かさ。
たうたう、歩め歩め。
(盗人、子、上手奥にて立つ)
途中、日が暮れたために寺に一夜の宿を乞います。盗人が眠っているすきに、男子は起き出して座主に救いを求めます。
盗人
されいされい。
小僧(一) (上手から出る)
誰が。
盗人
我ぬや首里者どやゆる
那覇者どやゆる。
童引き連れて、
山原に行きゆん。
今日や夜も暮れて、
行く先も見らぬ。
お情けに一夜
貸らち給うれ。
小僧(一)
座主にこのやう
知らしやうち、
でよでよ
宿を貸らさうや。
小僧(一)
座主も聞き留めた。
童引き連れる
旅立ちよやらば、
一夜明かせ。
たうたう
あれへ休みやうれ
あれへ休みやうれ。
子
されいされい。
座主
宿借たる童
物言い声のあすが、
如何やることあとて、
とまいて来ちやが。
子
我身や首里方の
侍のなし子。
遊びぼれしちど
人離れ行きやり、
盗人に捕られ、
盗人に抱かれ、
知らぬ道歩ゆで、
知らぬ此の寺に
連れられて来ちやん。
慈悲よ我が命
救て給うれ。
座主
気遣いすな童。
見ちやる目のいちやさ、
如何しがな命
救てとらさ。
小僧共集め、
談合しめさしやう。
小僧共よ、小僧共よ。
小僧(共)
ほう。
座主
宵に宿借たる
花盛り童
遊びぼれしちど
人離れ行きやり、
盗人に捕られ
こがとぎやで来ちやる。
如何しがな命
助けぼしやの。
小僧(一)
いやいや、憎い者よ。
小僧(二)
いやいや、やから者よ。
座主
ゑい、小僧。
分別をしやうち、
縛て置かうや。
小僧(二)
あゝ、思付ちやる事の
我身に又あゆん。
首里からどやゆる
那覇からどやゆる。
童引き盗で、
行く先も知らぬ。
似ちよる者あらば、
似ちよる者聞かば、
縛てをて語れ、
縛てをて知らせ。
首里早使あもの
那覇早使あもの、
おがが年姿
童年姿
似ちよるごとあものでて、
起ちたぶらかち、
しまて置きやべら。
座主
いやいや
すじりごとたくだ。
たう、たらば、
御羽書のよう、
調やうれ。
小僧(共)
おう。
(座主を先頭に上手奥に入り、再び出て来る)
小僧たちは、盗人を捕らえるために偽の御触書を作ります。それには男子の年齢や衣裳、盗人の人相を書いてあります。盗人は小僧が読み上げる御触書の人相と逆の仕草や表情をします。ついに、盗人はびっくり仰天して逃げ出しますが、小僧たちに捕らえられてしまいます。男子は無事に助けられます。
小僧(二)
これこれ、座主の前。
座主
いやいや、しちやるまげさ。
小僧(一)
いやいや、式目の根末
呑込だるまげさ。
小僧(二)
如何が如何が。
座主
ゑい小僧。
たう、やらば、
急ぎ起こさう。
小僧(二)
おう。
いやいや。
大事や目の前に
置きなげな男、
心ゆるゆると
寝るな、起きれ。
盗人
何事のあとて、
こねや我身起こす。
小僧(二)
これよ、これよ。
首里からどやゆる、
那覇からどやゆる。
童引き盗すで、
行く先も知らぬでて、
書付のあもの、
御羽書のあもの、
たうたう、
耳の根よほらち、
だによ聞き留めれ。
覚
童歳七つ、
衣裳浅地黄地に形付、
盗人歳廿四五、
丈程大方、
色黒く、
眉黒く、
眼細く、
鼻大く、
口大く、
髪に頭巾、
腰に鎌差、
右当月二十日の夜、
何某子盗人に捕られ、
行先不相知候間、
見出聞出候はゞ
即刻搦めとり、
首尾可之者也
月 日
小僧(二)
いや、逃さぬ。
座主 (盗人下手に逃げる。小僧も後を追い出てくる)
あゝ出来た、出来た。
小僧(二)
おう。
座主
目眉色清さ
花盛り童、
今日からや弟子に
取らんしゆもの。
気遣すな童、
たよりあるやらば、
連れて、思童、
行かんしゆもの
(座主、一同上手に入る)
一人っ子を失った母親が、狂乱の体で登場します。童子たちがからかって母親(狂女)を踊らせます。そこに座主と小僧が登場し、小僧がわけを聞くと、母親(狂女)は失った子供の行方を尋ねているのだ、と答えます。そこで寺で預かっている男子を引き合わせると親子であることがわかりました。母親は正気を取り戻し、親子は座主と小僧に礼を述べて帰宅します。
歌「子持節」(母の出羽、下手より)
生れらぬ生れ
今ど思知ゆる
十に足らぬ内に
十に満たぬ内に
去来のおれづんに
こぞの若夏に
親に捨てられて
別れやりをれば
朝夕我が頼で
朝夕伽しちやる
玉黄金一人子
去ぢやる三月に
あしゆらしち居らぬ
遊びぼれともて
友むつれともて
待ちかねて居たん
夜の暮れるぎやでも
夜の明けるぎやでも
物言声もすらぬ
足音もないらぬ
肝も肝ならぬ
恥も恥ならぬ
とまいれはも居らぬ
もの迷ひがしちやら
かつ死にがしちやら
山淵に落てゝ
犬猫の餌食
なたらてやりとめば
肝ふれて居ゆん
肝迷ていきゆん
童子(一)(下手から出る)
ゑいゑい、
あれ見ちやか、見ちやか。
女狂人の
踊りしち来ゆん。
見物よ見物よ
でよでよ連れて
見だうや。
童子(二、三)
たうたう、連れて
見だうや。
童子(共)
ゑいゑい狂人、
又も踊れ踊れ
母
心あれ童、
思尽くすことの
身に余て居てど、
狂れて居ゆる。
童子(共)
ゑいゑい、狂人
思尽くすことの
身に余て居らば、
踊て片時も
遊で暮らす。
歌「散山節」
この世にが居ゆら、
後生が又やゆら、
玉黄金一人子
定めぐれしや。
座主
ゑい、小僧ども。
女狂人の
踊て来るは。
見物ゆ見物ゆ、
出ようれ出ようれ。
小僧(一)
ゑい、狂人、
踊れ踊れ。
小僧(二)
ゑい、狂人、
如何ることあとて、
女狂人の
粗相に寺内を
とまいて来ちやが。
母
去ぢやる三月の
二十日なて、
一人子失やり、
肝も肝ならぬ、
恥も恥ならぬ、
とまいれはも居らぬ、
肝狂れてをゆん、
肝迷て居ゆん。
座主
ゑいゑい、童共。
云るゆことよ聞けば、
無蔵なものよ。
無理になばくるな、
急ぎ戻れ。
小僧(一)
たうたう、
戻れ戻れ。
座主
ゑい、女、
失たる童
年頃やいくつ。
母
七つ。
座主
名は。
母
亀松。
座主
思合はしゆる事の
あてど尋ねゆる。
玉黄金一人子
これやあらね。
母
玉黄金一人子、
生ち居ため。
子
やあ、母親よ。
歌「東江節」
あゝけ、生ち居ため。
母
玉黄金一人子
とまいつちやることや
夢が又やゆら、
定めぐれしや。
子
やあ母親よ、
盗人に捕られ、
この御寺頼で
座主の前のお情けに
生ち居やべたん。
座主
ゑい、女、
去ぢやる三月の
二十日なて、
盗人に捕られ、
この寺に来ちやん。
見ちやる目のいちやさ
肝ぐれしやあてど
露の身の命
救てあたる。
母
座主の前のお情けに
一人子今日もらて、
この御恩いつも
忘れぐれしや。
座主
いやいや、不思議な縁よ、
不思議な縁よ。
たうたう、
今日の誇らしやや
なをにぎやな譬てる。
押し連れて互いに、
踊て戻れ。
歌「立雲節」
今日の誇らしやや
なをにぎやな譬てる。
莟でをる花の
露きやたごと。
(母子は下手に、座主と小僧は上手に入る)
【訳】
これは人盗人である
首里の子供を盗んで
那覇の子供を盗んで
国頭地方に売り
中頭地方に売り
高い身代金で売って
高い身代金を取って
うまい物を用意して
うまい物を喰らい
浮世を渡っておる
浮世を楽して暮らしておる
今日の吉日に
見ている人もいない
傍らに寄って
傍らに立って
子供を待ち伏せて盗もう
子供を引き寄せて盗もう
引き合わせてください
引き付けてください
ああ尊〈神仏への祈りのことば〉
風車をとると
風に吹かれて廻る
友達をさがしていっしょに
遊びたいものだ
ああ、願ったら、思ったら
良い子が来る
まず人形を見せかけて
人里離れた所まで
だまして行こう
良い子だ
ヱイ ヱイ
四月になると
デイゴの花が咲き
暗い山も
明るくなるよ
シーヤポー、シーヤポー
これ これ
さあさあ、今日からは一緒に
今日からは(遠くへ)行って
おいしい物をあげよう
この人形をやろう
さあさあ、歩け歩け
生みの母親に
お別れもしていない
どこへ連れて行くのか
許してください
いや、許すことはできない
放すことはできない
わめくならわめけ
叫ぶなら叫べ
これを見たか、子供
これを見たか、子供
あれまあ、あれまあ
さあさあ、立て立て
父親にも
死別しているのに
さらに母親とも
別れるかと思うと(悲しい)
いやいや、またまた(泣くのか)
叫ぶなら叫べ
これこれ
さあさあ、歩け歩け
昨日からの疲れで
足も痛い
御慈悲お情けで
しばらく休ませてもらおう
いやいや、だめだだめだ
今日は日も暮れて
行く先も見えない
あのお寺を頼って
今宵を明かそう
さあさあ、歩け歩け
もしもし
誰か
私は首里の者である
那覇の者である
子供を連れて
山原へ行く(ところだ)
今日は日も暮れて
行く先もわからない
お情けでもって一夜(の宿を)貸してください
座主にこのことを
お知らせして
どれどれ
宿を貸そうよ
座主も承知した
子供を引き連れての
旅立ちならば
一夜(をここで)明かせ
さあさあ
あそこでお休みなさい
あそこでお休みなさい
もしもし
宿を借りた子供の
物言う声が聞こえるが
どういうことがあって
尋ねてきたのか
私は首里の
侍の生みの子である
遊びほうけてしまって
人里離れた所へ行き
盗人に捕らえられ
盗人にさらわれ
知らない道を歩いて
知らないこの寺に
連れて来られた
お慈悲で私の命を
助けてください
心配するな、子供
見た目の痛わしさ
何としてでも命を
助けてあげよう
小僧たちを集めて
その相談をさせよう
小僧たちよ、小僧たちよ
はい
宵に宿を借りた
可愛らしい子供は
遊びほうけてしまって
人里離れたところに行き
盗人に捕らえられ
こんな遠くまで来てしまった
何としてでも命を
助けてやりたいものだ
いやいや、憎い奴だ
いやいや、図々しい奴だ
これ、小僧たち
正しい判断をして
(盗人を)縛ってしまおう
ああ、思い付いたことが
私にあります
首里からだが
那覇からだが
子供を引き盗んで
行方がわからない
似ている者がいたら
似ている者が(いると)聞いたら
縛っていて報告せよ
縛っていて知らせよ
首里からの早使いがあるから
那覇からの早使いがあるので
お前の年格好
子供の年格好
似ているようだからと言って
起こしてたぶらかして
縛っておきましょう
いやいや
すごいことを企んだものだ
さあ、それなら
御触書のように
調えなさい
はい
これこれ、座主様
いやいや、したことの大げさなこと
いやいや、法令のすみずみまで
呑み込んでいて大がかりだな
どうだ、どうだ
これ小僧
さあ、それなら
急ぎ起こそう
はい
いやいや
大変な事が目前に
起きようとしているのに、
この男は
安心しきって
寝るでない、起きよ
何事があって
こんな夜更けに私を起こすのか
これよ、これよ
首里からであるぞ
那覇からであるぞ
子供を盗み出して
行方も知らないといって
書付がある
御触書がある
さあさあ
耳の穴を開けて
しかと聞き留めよ
覚
子供、歳は七つ
衣裳は浅地黄地に形付
盗人は歳が二十四五
身長は高く
色は黒く
眉は黒く
目は細く
鼻は大きく
口は大きく
頭に頭巾
腰に鎌を差している
右の者は今月二十日の夜に
何某の子、盗人に捕らえられ
行方がわからないので
見出し聞き出すことがあったら
すぐ搦め捕り
逃がさないようにせよ
月 日
いや、逃がさないぞ
ああ、でかした、でかした
はい
美しい顔の
美しいさかりの子供よ
今日から弟子に
取ろうと思う
心配するな子供よ
機会があれば
愛しい子よ、連れて
行くつもりだ
甲斐のない生まれであることを
今、思い知った
十歳に足りない間に
十歳に満たない内に
去年の初夏の頃に
去年の若夏の頃に
親に捨てられて
別れている
朝夕私が頼りにしていた
朝夕寂しさを慰めていた
大切な一人子を
去る三月に
行方不明にして、いない
遊びほうけていると思って
友だちと遊びほうけていると思って
今か今かと待っていた
夜の暮れるまでも
夜の明けるまでも
話し声も聞こえない
足音も聞こえない
気が気でなく
恥も恥とせず
捜してもいない
もの(霊)に迷わされたのか
餓死をしたのか
谷底に落ちて
犬猫の餌食に
なったのかと思うと
気がふれている
理性を失っている
やーい、やーい
あれ見たか見たか
物狂い女が
踊りながらやって来る
見物だぞ見物だぞ
やいやい一緒に
見ようよ
さあさあ一緒に
見ようよ
やーいやーい、物狂い
もっと踊れ、もっと踊れ
素直な心を持ちなさい、子供よ
思い詰めることが
身に余っているから
気がふれているのだ
やーいやーい、物狂い
思い詰めることが
身に余っているのなら
踊って片時でも
遊んで暮らせ
この世にいるのか(それとも)
あの世にいるのか
大切な一人子は
分からない
やい、小僧たち
女の物狂いが
踊って来るぞ
見物だぞ、見物だぞ
おいでなさい、おいでなさい
やい、物狂い
踊れ踊れ
やい、物狂い
どんなことがあって
女物狂いが
無遠慮に寺の内まで
尋ねて来たのか
去年の三月
二十日に
一人子を失い
気が気ではなく
恥を恥ともせず
捜してもいない
気がふれています
心迷っています
これこれ子供たち
言うことを聞くと
可愛そうな者よ
ひどくからかうな
急いで帰りなさい
さあさあ
帰れ帰れ
これ女よ
失った子供は
歳はいくつか
七歳
名前は
亀松
思い当たることが
あるので尋ねるのだ
大切な一人子は
これではないかね
大切な一人子よ
生きていたのか
やあ、母親よ
あらまあ、生きていたのか
大切な一人子を
捜し当てたのは
(もしかして)夢ではないかしら
はっきりしない程だ
やあ、母上よ
盗人に捕らえられ
この寺にお願いして
座主様のお情けによって
生きておりました
これ、女よ
去年の三月の
二十日に
盗人に捕らえられ
この寺に来た
見た目の痛々しさ
気の毒なので
はかない命を
救ってあげたのだ
座主様のお情けで
一人子を今日もらい受けて
この御恩はいつまでも
忘れられない
いやいや、不思議な因縁だ
不思議な因縁だ
さあさあ
今日の嬉しさは
何に譬えようか
連れだって互いに
踊って帰ろう
今日の嬉しさは
何に譬えようか
莟んでいる花が
露に逢ったようだ
拍子木
【出典】『校註琉球戯曲集』伊波普著 一九二九年
(台本整理・あらすじ及び訳=大城 學)