伝統組踊保存会

演目紹介

孝行の巻  玉城 朝薫 四番

【詞章】
拍子木
音曲「大主手事」(頭取と供〈高札持〉が下手から登場)

頭取
出様ちやる者や
伊祖の大主の
御万人の中に
頭取聞きゆる
者どやゆる。
御万人のまぎり
だによ聞き留めれ。
漏池てる池に
大蛇棲で居とて、
風の根も絶えらぬ、
雨の根も絶えらぬ、
屋蔵吹き崩ち、
原の物作も
根葉枯らち置けば、
去年今年なてや
首里納めならぬ
那覇納めならぬ、
御百姓のまぎれ
かつ死に及で、
御願てる御願
崇べてる崇べ
肝揃て立てゝ
肝揃て願て、
時のト方も
神のみすゞりも
十四五なる童
蛇の餌食かざて、
御崇べのあらば、
御祭りのあらば、
おにきやらやほこて
またからやほこて、
作る物作も
時々に出来て、
御祝事ばかり
百果報のあむで
みすゞりのあもの、
こころある者や
御主加那志御為
御万人の為に
命おしやげらば、
なし親やだによ
引はらうじ迄も
おの素立めしやいる
およす事拝て、
高札にしるち、
道々に立てゝ、
道々に置きゆん。
心ある者や
心付く者や
肝揃て拝め、
肝留めて拝め。
高札よ高札よ
立てやうれ、立てやうれ。

おう。(一礼して、高札を立てる)
 (頭取、供、下手に入る)

父親を早くに亡くし、貧しい生活の中で母親を養っている姉弟が登場し、稲や粟の落ち穂を拾っているさなか、高札を見つけます。姉は弟を説得して、生活を救うために大蛇の生け贄になる決意をします。姉は潮を汲みに行くと母親に口実を言って、頭取に会いに行きます。

歌「宇地泊節」(おめなり、おめけり出羽、下手から)
朝夕かに苦しや
おめなりと我身や
夢の間の浮世
暮らしかねて。
男子
あはれ知りめしやうれ、
おめなりと我身や
侍のなし子
侍のすで子。
父親に捨てられて、
一人居る母の
口かすぎならぬ、
大原に行きやり、
稲落穂拾て
粟落穂拾て、
死にゆる命救て
死にゆる命つぎやり、
今日迄や暮ち
今日迄や居すが、
明日も亦知らぬ
此世界の習ひや
のがすどくかにある、
渡り苦しや。
やあ、おめなりよ、
今日も押連れて、
大原に行きやり、
稲落穂拾ひ、
粟落穂取らに。
女子
でよでよ、連れて、
大原に行きやり、
稲落穂拾ひ、
粟落穂取らに。
男子
神の引合せに
今日連れて来ちやん。
果報もの目の前に
あるが嬉しや。
女子
いきやる事あとて、
肝ほこりしゆゆが。
目の前ある嬉しや
我ぬに語れ。
男子
高札の表
心付き見れば、
此頃の事に
漏池てる池に
大蛇てるものゝ
風の根よ起ち、
御万人のまぎり
かつ死に及び、
心ある者や
肝のある者や
御主加那志御為
御万人の為に
命おしやげらば、
命捨てゆらば、
蛇の餌食なしやり、
なし親やだによ、
引きはろぢ迄も
御助けのあんで
高札のあもの、
やあ、おめなりよ、
生れらぬ生れ
しち居らずよりや、
とても我が命
蛇の餌食なやり、
母とおめなりや
助け欲しやの。
女子
あにやる事あれば、
誇らしやどあゆる。
我が望み叶て、
我が望み遂げて、
やあ、おめけりよ、
居ても役立たぬ
女わないやれば、
首里御為ならに、
母の為ならに。
おめけりや残て、
朝夕肝尽ち、
一人居る母に
孝の道尽くす。
男子
おめなりやいへも
年長よやれば、
残て母親の
助けなゆん。
女子
先咲ちやる花や
先どまた散りる、
弟先なしゆる
道のあるい。
男子
無常の此世界に
後先の有るい。
花に吹く嵐
時や知らね。
女子
姉の言ふ登言葉
与所になすあらば、
とても我が命
捨てゝ見せら。
男子
もの迷ひしちやめ。
肝ふれて居ゆめ。
母と我ぬ捨てゝ、
まかへ行きゆが。
女子
いたづらに命
捨てる欲しややないらぬ、
我が言葉与所に
なしゆんちやこと。
男子
いきやし暮しゆゆが、
後に我ない残て、
あめなりが事ま
朝夕思て。
女子
やあ、おめけりよ、
余りどく泣くな、
互に母親の
為に思立ちゆる
事どやゆる。
かにある憂苦しや
誰がしちやることが。
捨てゝ先なたる
父の恨めしや。
男子
おめなりよ別れ、
明日からや母の
恨みごとあらば、
我ぬやきやしゆが。
女子
互に泣き暮ち、
与所あらば
きやしゆが。
いへも片時も
急ぎ欲しやの。
やあ、おめけりよ、
後生の旅だいもの、
母一目拝で、
心やす心やすと
別れ欲しやの。
男子
もしか母親の
知らば此のからに、
思ていたづらに
ならばきやしゆが。
女子
やあ、おめけりよ、
思付ちやることの
我身にまたあゆん、
大海に下りて、
潮汲みがてやり
母や色々に
口めぐり語ら。
男子
物思ば色に
顕れる浮世、
油断すな互に
物よ思つめて。
女子
やあ、母親よ、
やあ、母親よ。
今日や雨晴れて、
波もまた無いらぬ、
大海に行きやり、
潮ばな汲まに。
歌「仲間節」(下句から母 下手より出る)
波荒さあらば、
風荒さあらば、
いきやし思暮ち、
我ぬや待ちゆが。
女子
やあ、母親よ、
今日や雨晴れて、
波もまた無いらぬ、
大海に行きやり、
潮ばな汲まに。

如何しがな此間
夢繁さあもの、
物思つめしちゆて、
潮ばな汲めよ。
のがすおめ童
物思面しちゆる。
今日や思留まて、
側に居れよ。
女子
やあ、母親よ、
如何しがな今日や
過ぎし父親の
俤のまさて、
忘れぐれしや。

我ぬもまた今日や
うらきらしやあもの、
物思つめしちゆて、
潮ばな汲めよ。
(下手に入る)
女子
やあ、おめけりよ、
母も我ない拝で、
残ること無いらぬ。
明日からや肝に
物思つめしちゆて、
遊びぼれするな、
友むつれするな。
男子
おめなりが居とど
遊びぼれしゆたる、
明日からや母の
側に居らに。
やあ、おめなりよ、
母の為てやり
思切らんすれば、
誠別れゆる
ことの恨めしや。
女子
急ぎ立ち戻れ。
おめけりが涙
袖に貫留めて、
別れ苦れしや。
やあ、おめけりよ、
急ぎ立ち戻れ、
急ぎ立ち戻れ
歌「本伊平屋節」
捨てる我が命、
男子
行きゆめ、おめなりよ。
女子
やあ、おめけりよ。
歌「本伊平屋節」
露ほども思ぬ、
明日や母親の
泣きゆらと思ば。
(おめけり下手に入り、おめなり下手で呼ぶ)

姉は頭取に、大蛇の生け贄になることを申し出ます。姉は頭取や大屋子たちに伴われて大蛇が出没する漏池の辺に行き、備え付けられた祭壇に上がります。大蛇が出てきてまさに姉を喰おうとしたそのとき、「孝感滅蛇」と書かれた小旗を持った神が降臨して大蛇を皮肉分散させてしまいます。姉は助かりました。

女子
やあ やあ、
高札の表
細々に拝で、
蛇の餌食なりが
我ぬや来ちやん。
頭取 (下手から出る)
嗚呼、御万人ど宝。
御万人ど黄金。
御主加那志御為
御万人の為に、
あたらしが命
露ほども思まぬ、
蛇の餌食なりが
来ちやめ、童。
女子
捨てる我が命
露ほども思まぬ、
母とおめけりや
救て給うれ。
頭取
母とおめけりや
気遣ばしするな。
やがて御素立の
あらんしゆもの。
たうたう、まづ
入やうれ 入やうれ>。
頭取
上地時之大屋子、
出やうれ 出やうれ。
頭取
花にまぎれゆる
童年すがた、
如何し連れ行きゆが、
袖の涙。
時之大屋子
如何し連れ行きゆが、
我ぬも涙。
歌「比屋定節」
後生の長旅や
行き欲しやや無いらぬ、
母の為やてど
誇て行きゆる。
時之大屋子
たうたう、童、
祭り時なたん、
果報時のなたん。
急ぢ立ち登れ、
御祭りよすらに。
頭取
思切れよ、童。
肝いちやさあても、
定またる事の
にやよしまれめ。
女子
親の為と思て、
捨てる我が命
のたい露ほども
惜しさ思ふが。
時之大屋子
今日の佳かる日に
今日の勝る日に
我ぬのとき、
我ぬの物知りの
御祭りよしゆもの、
おたかべよしゆもの、
此の童得て誇れ、
此の童取得て誇れ。
おもきやらや又からや
風のわざするな、
雨のわざするな。
嗚呼とうと、嗚呼とうと。
頭取
鳴呼、天道も近さ、
神もあるものよ、
神もあるものよ
時之大屋子
鳴呼、天道も近さ、
ときもあるものだやべる。
女子
誠ある心
我がもちやり居れば、
神の御助の
あるが嬉しや。
頭取
おれよ おれよ。
親麁相に思まぬ
心あてからや、
かにやる百果報の
目の前にあゆん。
たうたう、童、
共に押し連れて、
此の事や戻て、
御主加那志天に
みおんみゆけてからや
肝誇りめしやうち、
やがて御助けの
あらんしゆもの。
 (頭取を先頭に上手に入る)

母親は、娘の企てを内緒にしていた息子を叱りつけます。自らも娘と一緒に大蛇の生け贄になろうと言って、漏池に向かう道中、頭取一行と会い、母親と娘は無事に再会できたことを喜びます。娘の孝心に感心した王府では、褒美として娘を王妃に、弟を王女の婿にする旨のことを頭取が母子に伝えます。

母 (母、おめけり、下手から出る)
やあ、亀千代。
与所の言ふる言葉
今日ど我ない聞ちやる。
さかしよも童
さかし事たくで、
一人居る母に
我肝つまち。
男子
おめなりが事や
止めて止めららぬ、
母の為てやり
命よ捨てゝ。

なし子先なしやり、
朝夕物思まち、
親の為てすや
無理やめらね。
かにやることあすが、
一人居る母に
のうてやり百隠し
隠ちあたが。
思ばまた苦しや、
さかしよも童、
かにやる事巧で、
我肝つまち。
畜生生れため、
一人居る姉の
露の身の命
取たる童。
言ちもいたづらに
しちやる事だいもの、
漏池てる池に
とまい着きやり共に
蛇の餌食なやり、
いかんしゆもの。
頭取
これ聞ちやめ、人のきや、
これ見ちやめ、童。
神仏てすも
外に又あるゑ。
是ど神やゆる、
揃て拝め。
御肝ある御主の
おいすごと拝で、
思童連れて、
ほこて行きゆる。
やあ、あれよあれよ。
親子連れ者の
道障りしよん、
道障りなゆん。
女子
やあ、母親よ。

玉黄金なし子
生ち居ため。
歌「東江節」
あけ、生ち居ため。

やあ、なし子、
物迷ひしちやめ、
かにやる事しぢやち、
一人をる母に
物よ思まち。
女子
母の憂き苦しや
忍で忍ばらぬ、
我身に引き受けて、
助け欲しやの。

一人をる母に
朝夕物思まち、
親の為てすや
無理やあらね。
男子
やあ、おめなりよ、
いきやる事あとて、
生ちきとやが。
女子
やあ、母親よ。
やあ、おめけりよ。
大蛇てるものゝ
水の花咲かち、
火花吹き散らち、
飛び付きゆる内に、
天の雲下がて、
空に物音の
あんと思ば、やがて
御神現れて、
御言葉のあれば、
みすゞりのあれば、
火花吹く大蛇
百かゞみかゞで、
雲になて失せて、
雨になて失せて、
露の我が命や
救てきちやる。
頭取
互にい言葉や
言やば何時迄も、
たうたう、百果報の
目の前にあもの。

百果報のあすや
いきやる事やゆが。
頭取
母もおめけりも
おめなりも揃て、
肝留めて拝め
肝揃て拝め。
御主加那志御言葉に、
此の童肝や
天にさし知れて、
たゞならぬ事よ、
まゝならぬ事よ、
天のさししるめ
天の引合せよ。
御主加那志御子
おめけりとおめなりと、
又思童てすも
おめけりとおめなじと、
年やいど
似合いよやれば、
おめけりや
一粒婿取らに、
おめなりや
一粒嫁取らに。
今日明る三十日
よかる日撰やれば、
御祝儀事めしやいる
御言葉のあもの、
波の声も止まれ、
風の声も止まれ、
母もおめけりも
おめなりも揃て、
肝留めて拝め、
肝揃て拝め。

かにやる百果報や
夢やちやうも見だぬ、
我どやれば我どゑ、
つでど見やべる。
やあ、なし子、
百果報のあれば、
よくど思出やしゆる、
捨てゝ先なたる
父の恨めしや。
頭取
我すた迄今日や
誇らしやどあゆる。
とても押連れて、
御祝事はじめ、
躍て立戻ら、
誇て立戻ら。
歌「屋慶名節」
親の為しちやる
肝の徒なゆめ、
神の御助けの
あるが嬉しや。
歌「屋慶名節」
今日の誇らしやや
何にがなたてる、
莟でをる花の
露きやたごと。
(頭取を先頭に一同、下手に入る)



  【訳】

まかり出た者は
伊祖の大主の
万人の中に
頭取〔役職〕を仰せつかる
者である
すべての人々よ
よく聞き留めなさい
漏池という池に
大蛇が棲んでいて
絶えず風を吹かし
雨も絶えず降っている
家屋を吹き崩して
田畑の作物も
すっかり枯らしてしまい
去年も今年も
首里への上納ができない
那覇への上納ができない
百姓たちの多くは
餓死してしまい
祈願という祈願を
お崇べ(神への祈願)を
心を一つにして
心を合わせて願い
時の巫覡も
神のお言葉も
十四、五歳の童を
蛇の餌食として供えて
神への祈願をすれば
お祭りをすれば
その後は誇って
その後は喜んで
作る農作物も
時期ごとに出来て
めでたいことばかり
たくさんの果報があると
神のお言葉があるので
心ある者は
国王のために
人民のために
命を捧げるならば
親は申すまでもなく
一族一門まで
そのお取り立てがあると
仰せ事をいただき
高札に記して
道々に立てて
道々に置くのだ
心ある者は
気の付く者は
心を合わせて拝見しなさい
心に留めて拝見しなさい
高札を
立てなさい




朝夕こんなに苦しく
姉上と私は
夢の間のはかない浮世を
暮らしかねている

哀れな身の上を知って下さい
姉上と私は
士族の生まれである
士族の子である
父上に捨てられて(死別して)
一人いる母上の
面倒をみることもできない
大野原に出かけて
稲の落ち穂を拾い
粟の落ち穂を拾い
死ぬ命を救って
死ぬ命をつないで
今日まではどうにか暮らして
今日までは生きているが
明日はどうなるのか知らない
この世の常とは
どうしてこんなに
渡りにくいのか
姉上よ
今日も連れだって
大野原に行って
稲の落ち穂を拾い
粟の落ち穂を取ろうよ

さあさあ、一緒に
大野原に行って
稲の落ち穂を拾い
粟の落ち穂を取ろうよ

神の引き合わせに
今日はやって来た
果報な事が目の前に
あるのが嬉しい

どういうことがあって
歓喜しているのか
目の前にある嬉しい事を
私に話しなさい

高札の表を
注意してみると
最近のことだが
漏池という池に
大蛇が棲んでいて
風を巻き起こして
大勢の人々を
餓死させている
心ある者は
思いやりのある者は
国王のために
人民のために
命を捧げるなら
命を捨てるなら
蛇の餌食にして
その親はもちろんのこと
一族一門まで
お助けがあるという
高札があるから
姉上よ
甲斐のない生まれで
いるよりは
いっそうのこと我が命を
蛇の餌食にして
母上と姉上を
助けたい

そのようなことであれば
嬉しいことである
私の望みが叶って
私の望みが遂げられて
弟よ
生きていても役に立たない
女の身であるから
国王のためになろう
母上のためになろう
弟は残って
朝夕心を尽くして
一人いる母上に
孝行しなさい

姉上はいくらか
年長であるから
残って母上の
手助けになる

先に咲いた花は
先に散るのが常である
弟を先に死なせるという
道理があるか

無常のこの世に
後先があるか
花に嵐が吹くようなもので
いつ死ぬのかわからない

姉である私の言うことを
他人ごとに思うならば
いっそうのこと私の命を
捨ててしまおう

魔がさしたのか
気でも狂ったのか
母と私を捨てて
どこへ行くのか

いたずらに命を
捨てたくはないが
私の言葉を聞き入れようと
しないからだ

どうして暮らすのか
後に残された私は
姉上のことを
朝夕思い出して

弟よ
そんなに泣くな
互いに母上の
ために思い立った
ことである
このような苦しさは
誰がしたことか
捨てて先に亡くなった
父上が恨めしい

姉上と別れて
明日から母上の
恨み言を聞くかと思うと
私はどうしよう

互いに泣き暮らして
他所に先を越されたら
どうしよう
片時も早く
急ぎたいものだ
弟よ
私は後生へ旅立つのだから
母上に一目あって
心おきなく
お別れをしたい

もしも母上がこのことを
知ったら、それっきりになり
折角の計画がだめに
なったらどうしよう

弟よ
いい考えが
私にある
大海に下りて
潮汲みに行くと言って
母上にいろいろと
言葉巧みに話そう

心配すれば顔色に
現れるのが普通だから
油断するなよお互いに
十分気をつけて

母上様
母上様
今日は雨も晴れて
波もなく静かである
大海に行って
潮を汲みたい

波が荒れて
風が吹き荒れたら
どうしてお前の事を心配して
私は待とうか

母上様
今日は雨も晴れて
波もなく静かである
大海に出かけて
潮を汲みたい

どうしたのかこの頃は
しきりに夢をみる
用心に用心をして
潮を汲むんだよ
どうしたのだ愛しい子よ
淋しそうな顔をしている
今日は思いとどまって
私の側にいなさい

母上様
どういう訳か今日は
亡くなった父上の
顔が浮かんで
忘れにくい

私もまた今日は
心せつないので
十分気をつけて
潮を汲みなさいよ


弟よ
母上にも会って
思い残すことはない
明日からは肝に命じて
十分気をつけて
遊びほうけるな
友達と遊びに夢中になるな

これまでは姉上がいたので
遊びほうけていたのだ
明日からは母上の
側に仕えよう
姉上よ
母上のためと言って
思い切ろうとするのだが
永遠の別れだと思うと
本当に恨めしい

急いで帰りなさい
お前の涙を
袖に受けとめて
別れにくいものだ
さあ、弟よ
急いでお帰りなさい
早くお帰りなさい

捨てる私の命は

行ってしまうのか、姉上よ

さようなら、弟よ

少しも惜しくは思わないが
明日は母上が
泣くのかと思うと辛い


もし、もし
高札の表に書かれていることを
詳しく読んで
蛇の餌食になるために
私は来ました

ああ、人民こそ宝だ
人民こそ黄金のように素晴らしい
国王のために
人民のために
惜しい命を
少しもいとわず
蛇の餌食になるために
来たのか、童よ

捨てる私の命は
少しも惜しくは思わない
母上と弟は
救ってください

母上と弟のことは
心配するな
間もなくお取り立てが
あるだろうから
さあ、先ずは
中にお入りなさい

上地時之大屋子よ
お出ください

花にみまがうほどの
美しい童を
どうして連れて行こうか
袖の涙を絞るばかりだ

どうして連れて行こうか
私も泣けてくる

後生の長旅は
行きたくはない
母上のためだから
喜んで行くのである

さあ、童よ
祭儀の時間になった
いい時刻になった
急いで壇上に登りなさい
祭儀をしよう

あきらめなさい、童よ
気の毒であっても
定めたことは
もはや中止できない

親のためだと思って
捨てる私の命です
少しも
惜しくはありません

今日の佳き日に
今日の吉日に
覡である私が
物知りである私が
祭儀を行うから
神へ祈願をするから
この童を得て誇れ
この童を取って喜べ
これから後は
風を吹かすな
大雨を降らすな
ああ、尊し

ああ、天も身近にあるものだ
神もいますことよ
神もいますことよ

ああ、天も身近にあるものだ
巫覡もあるものだ

誠の心を
私が持っていたので
神のお助けが
あった、嬉しいことだ

そうだ
親を粗末に思わない
心があったから
このような大きな果報が
目の前にあるのだ
さあ、童よ
一緒に連れだって
このことは戻って
国王様に
申し上げると
お喜びになって
間もなくお助けが
あるはずだ


亀千代
世間の噂を
今日はじめて私は聞いた
小賢しい子どもが
小賢しいことを考えて
ただ一人の母に
辛い思いをさせるなんて

姉上のことは
どうしても止められなかった
母上のためと言って
命を捨ててしまった

子を先立たせて
朝夕辛い思いをさせて
親のためと言うのは
無理な話だ
このようなことを
ただ一人の母に
どうしてひた隠しに
隠していたのか
思うとまた苦しくなる
小賢しい子どもが
このようなことを企てて
私に辛い思いをさせて
畜生に生まれたのか
たった一人の姉の
はかない命を
取った奴だ
言ってみても無駄に
してしまったことだ
漏池という池に
尋ねて行って娘と一緒に
蛇の餌食になろうと
行くところである

このことを聞いたか皆の衆
このことを見たか子ども達よ
神仏というのも
別世界にあるものではなく
これこそ神である
揃って拝みなさい
慈悲深い国王様の
仰せ言を聞いて
愛しい童を連れて
誇りに思って行くのだ
あや、あれを見なさい
親子が連れだって
道を邪魔している
道を妨げている

やあ、母上様

愛しい娘よ
生きていたのか

ああ、生きていたのか

娘よ
乱心を起こしたのか
このようなことをしでかして
たった一人の母に
辛い思いをさせて

母上様の苦しい生活は
見るに忍びないので
私が身代わりになって
助けたかったのです

たった一人の母親に
朝夕辛い思いをさせて
親のためというのは
無理な話ではないか

ねえ、姉上よ
どのようなことがあって
生きて帰れたのか

母上様、聞いてください
弟よ、聞いてちょうだい
大蛇というものが
水煙を吹き上げ
火花を吹き散らして
飛びかかろうとするときに
天から雲が下がり
空に物音が
あったかと思うと、間もなく
神様が現れて
お言葉があって
神託があって
火花を吹く大蛇が
縮みあがって
雲になって失せ
雨になって失せた
はかない私の命は
こうして救われたのです

互いの語らいは
いつまでも尽きない
さあ、たくさんの果報が
もうすぐもたらされるぞ

たくさんの果報とは
どういうことですか

母上も弟も
娘も揃って
心して聞きなさい
しっかり聞きなさい
国王の言葉に
この娘の心は
天に通じて
ただならぬことだ
容易ならぬことだ
天の啓示
天の引き合わせであるよ
国王様の御子に
男子と女子がおられ
あなたがたの子どもと
国王様の男子と女子は
年齢が一緒で
お似合いだから
弟は
一人きりの婿に取り
姉は
一人きりの嫁に取ろう
来る三十日は
吉日なので
御祝儀を挙げるとの
お言葉であるので
波も静まれ
風もおさまれ
母も弟も
姉も皆揃って
心にとめて聞きなさい
しっかり聞きなさい

このようなたくさんの果報は
夢にさえ見たことはない
夢心地で、わが身を
つねってみるほどだ
子ども達よ
たくさんの果報があれば
ますます思い出されるのは
私たちを捨てて先立った
父上が恨めしい

私たちまで今日は
嬉しさで一杯である
早速、連れだって
御祝事をはじめるので
踊って戻ろう
喜んで帰ろう

親のために尽くした
心はあだにならない
神のお助けが
あることが嬉しい

今日の嬉しさは
何にたとえようか
まるで莟んでいる花が
露を受けて咲きほころぶようだ


拍子木



【出典】『校註琉球戯曲集』伊波普著 一九二九年

(台本整理・あらすじ及び訳=大城 學)