【詞章】
拍子木
音曲「按司手事」 (下手より出る)
あまおへ
出様ちやる者や
屋良のあまんぎやな
勝連のあまおへ
あゝ、天の雨風や
絶ゆるとも人の
望み事絶らぬ
此世界の習や
あゝ、にやや
首里城滅ぼすば
此天の下や
我自由しち遊で
浮世暮さ
道障りしゆたる
護佐丸の按司も
首里城登て
いろいろに言ひなち
かうずみよいつて
思たごと今や
護佐丸も殺ち
なし子刈捨てて
すで子刈捨てて
肝障り無らぬ
道障り無らぬ
よかる日ゑらで
まさる日ゑらで
首里軍すらに
那覇軍すらに
今日明る二十日
今日明る三十日
よかる日やこと
まさる日やこと
野原出て遊ば
願立てて遊ば
供のちや、供のちや
供
ほう
あまおへ
おが達も知る
護佐丸のかんだ
根葉刈やり置けば
肝障り無らぬ
事障り無らぬ
今日明る二十日
今日明る三十日
よかる日やこと
まさる日やこと
野原出て遊ば
願立てて遊ば
此やう用意しめさせう
供
拝留めやべて
音曲「按司手事」 (下手に入る)
落城の際に城を落ちのびた護佐丸の遺児の鶴松と亀千代(二童)が登場します。二童は、成長して父の仇のあまおへを討つ機会をねらっています。ある年、あまおへが野遊びをすると聞いた二童は、父親の仇を討つ機会が訪れたと意を決します。二童は母親に仇を討つことの許しを得ます。そこで二童は父親・護佐丸の形見の守り刀(短刀)を母親から受け取り、母子は別れます。
歌「すき節」 (二童の出羽、下手より)
節々がなれば
木草だいん知ゆり
人に生れたうて
我親知らね
鶴松
護佐丸のおと子
鶴松亀千代
親の護佐丸や
罪科も無らぬ
勝連の按司の
かうずみしやうち
親と一門
なし子まで
さがし出され
殺されて
残る二人は
国吉の比屋が
情ゆえ
母の懐に
隠されて
年月や積で
十二つ 十三つよ
やあ、亀千代
今日やあまおへの
はる遊びてもの
此やう母に
知らしやうち
でよでよ
敵討たうやあ
亀千代
親の敵とやり
たとへ死ぢ後も
国のある迄や
沙汰ど残る
鶴松
すだし母親も
聞き留めて給うれ
朝夕さも
寝ても忘れらぬ
親の敵かたき
今日連れて互に
討たんしゆもの
歌「仲村渠節」
親の敵とゆる
義理立よやれば
悲し振別れも
すらななゆめ
母
なし子わない連れて
行き欲しやどあすが
女生れたる
事の恨めしや
親の肌そたる
此守り刀
今日ど取らしゆもの
今日ど渡しゆもの
肝に思染めて
油断するな
鶴松
やあ、亀千代
親の敵討や
ほこらしやどあすが
すだし母親に
別ると思ば
歌「散山節」
このからがやゆら
また拝もことも
今日の出立や
定めぐれしや
鶴松
やあ、亀千代
母の露涙
思流しかねて
あたら敵かたき
今日や討たね
亀千代
母も立戻れ
いつ迄も名残
袖に貫きとめて
別れ苦しや
歌「伊野波節」
生別れだいんす
かに苦れしやあもの
あらし声のあらは
我身やきやしゆが
(母は上手に入る)
鶴松
やあ、亀千代
躍子になやり
敵の前に行かは
互に見合しやり
敵にかから
亀千代
胸に物思めば
色にあらはれる
油断すな互に
物思つめて
(二童下手に入る)
あまおへ (下手から出る)
節も春来れば
木草萌えいでて
心晴れ晴れと
遊ぶ嬉しや
供のちや供のちや
遊べ遊べ
供
おう
音曲「按司手事」
あまおへ
あゝ、今日や
波の声もたゝぬ
押そ風もすだしや
一つ飲で遊ば
おが達も遊べ
供
拝留めやべて
あまおへ
たうたう
酒よ酒よ
出しやうれ、出しやうれ
供
おう
供(三)
され、あげやべら
あまおへ
一つ注げ
おが達も
飲まい遊べ
歌「池武当節」 (二童、下手から登場)
散りて根にかへる
花も春来れば
またも色勝る
ことの嬉しや
あまおへ
あれ、見ちやか見ちやか
花盛り童
押し連れて躍る
なりふじの美らさ
呼べよ呼べよ
供(三)
おう
ゑい童
勝連の按司の
お呼びよ
御前に出やうち
躍てみおう目掛けれ
鶴松
躍子やあらぬ
春に浮かされて
花のもと忍で
遊で暮す
供(三)
いや
あへな按司添ひの
めしやいる事聞かな
花盛り童
命とるな
鶴松
命の為やらは
でよでよ行かうよ
あまおへ
ゑい童
能羽しち
めさましやうれ
めさましやうれ
鶴松
おう
歌「はべら節」 (二童の踊り)
かにやる御座敷に
御側寄て拝がで
我身やれば我身い
つでど見やべる
あまおへ
あゝ、清さ清さ
是もとらさうよ
是もとらさうよ
供(三)
これこれ
あまおへ
たうたう
注げよ注げよ
またも飲まに
鶴松
やぐさめの知らぬ
我ぬ御酌とらに
あまおへ
あゝ、出来た出来た
たうたう
注げよ、注げよ
花盛り童
酌取りの清さ
注ぎゆる酒までも
匂ひのしほらしや
常やどく飲まぬ
我ぬどまたやすが
今日の誇らしやに
又も飲まに
たうたう
注げよ、注げよ
供(一)
我すた迄今日や
誇らしやどあゆる
供(二)
花にまぎれゆる
童年姿
供(三)
匂ひに引かされて
飲だるまげさ
あまおへ
ゑい、供のきや
又も躍らしやうれ
見欲しや、見欲しや
供(三)
たうたう、又も躍て
御目掛けやうれ
歌「はべら節」(二童の踊り)
莟で居る花に
近づきゆる蝶
いつの夜の露に
咲ち添ゆが
あまおへ
あゝ、清さ清さ
ゑい、供のちや
これも取らさうよ
たう、これも取らさうよ
又も躍らしやうれ
供(三)
これこれ、又も躍て
みおう目掛けやうれ
鶴松・亀千代
戻せはやるまい
歌「津堅節」 (二童とあまおへの踊り)
勝連の按司や
だんじゆ警まれる
丈ほども姿
人に替て
鶴松
護佐丸のすで子
知つたか
あまおへ逃すまい
(あまおへ下手に逃げる)
音曲「三線列弾き、太鼓きざみ打ち」
亀千代
朝夕さも
寝ても忘れらぬ
親の敵仇
討ち取たることや
夢がやゆら
鶴松
仇討ち取たる
今日の嬉しさや
過し父親も
知ゆらと思ば
やあ、亀千代
刀や鞘に納め
躍て戻らうや
亀千代
たうたう
躍て戻らうや
歌「やれこのしい節」(二童の踊り)
今日の誇らしやゝ
何にぎやな譬てる
莟で居る花の
露きやたごと
(二童、下手に入る)
【訳】
まかり出た者は
屋良の天降り加那
勝連の阿麻和利である
ああ、天の雨風は
絶えても、人の
望み事は絶えない
この世の習わし
ああ、もはや
首里城を滅ぼせば
この天下は
私の思い通りに振る舞い
この世を暮らそう
邪魔者であった
護佐丸という按司〈役職名〉も
首里城に登城して
色々偽りごとを言い
告げ口を言って
思ったように今は
護佐丸も殺し
生みの子を刈り捨て(殺し)
愛児を刈り捨て
気掛かりなことはない
邪魔者もいない
吉き日を選び
勝る日を選んで
首里城を攻める戦いをしよう
那覇の戦いをしよう
今日明ける二十日
今日明ける三十日は
吉き日なので
勝る日なので
野に出て遊ぼう
願いをかけて遊ぼう
供達よ、供達よ
はい
お前達も知っている
護佐丸の一党を
根こそぎにしたので
気掛かりなことはない
支障はない
今日明ける二十日
今日明ける三十日は
吉き日なので
勝る日なので
野に出て遊ぼう
願いをかけて遊ぼう
この様に用意しなさい
かしこまりました
季節季節になると
木や草でも知っている
人間に生まれて
親を知らないでよいものであろうか
護佐丸の遺児の
鶴松と亀千代である
親の護佐丸は
罪過もないのに
勝連の按司の
讒言によって
親と一族
子どもまで
捜し出され
殺されて(しまった)
残ったこの二人は
国吉の比屋の
情によって
母のあたたかい抱擁に
庇護されて
年月は経過し
十二歳と十三歳である
やあ、亀千代よ
今日は阿麻和利の
野遊びがあるという
このことを母親に
知らせて
さあさあ
敵を討とうよ
親の敵を討てば
たとえ(二人が)死んでも
国がある限り
名声は残る
敬愛する母親も
お聞きください
朝な夕な
寝ても忘れられない
親の敵仇を
今日こそ連れ立って
討とうと思う
親の敵を討つ
義理立てのことであれば
悲しい別れも
しなければならない
愛しい子を私は連れて
行きたいが
女に生まれた
ことが恨めしい
親(父)が身につけた
この守り刀を
今日こそ取らすので
今日こそ渡すので
心にしかと留めて
油断するな
やあ、亀千代
親の敵討ちは
嬉しいことだが
敬愛する母親に
別れるかと思うと
このまま永久の別れとなるのか
再びお目に掛かることもあろうか
今日の出で立ちは
定めにくい
やあ、亀千代
母の涙を
忘れることなく
大事な敵仇を
今日こそ討とう
母もお帰りなさい
いつまでも名残惜しい
袖にとどめて
別れにくい
生き別れでさえ
こんなに苦しいのに
凶報があったら
私はどうしょう
やあ、亀千代
踊り子になって
敵の前に行くと
互いに見合わせて
敵にかかろう
心の中で物思うと
顔色に現れる
油断せずに互いに
熟慮して(敵にかかろう)
季節も春になると
木や草も萌え出して
心晴れ晴れと
遊ぶ嬉しさ
供達よ供達よ
遊べ遊べ
はい
ああ、今日は
波の音もしない
そよ吹く風も涼しい
一つ飲んで遊ぼう
お前達も遊べ
かしこまりました
さあさあ
酒を酒を
出しなさい出しなさい
はい
もし、差し上げましょう
一杯注げ
お前達も
飲んで遊べ
散って根の土に還る
花も春が来ると
また色美しく
咲くことが嬉しい
あれを見たか見たか
年頃の子どもが
連れ立って踊る
容姿の美しいことよ
呼びなさい、呼びなさい
はい
おい、子ども
勝連の按司が
お呼びだぞ
御前に出て
踊って御覧に入れよ
踊り子ではない
春の陽気に浮かれて
花のある所を尋ねて
遊んで暮らしている
これ
あれほどの按司様の
仰ることを聞かずに
年頃の子ども
命を落とすな
命の為ならば
さあさあ行こうよ
おい、子ども
踊って
見せておくれ
見せておくれ
はい
このような御座敷に
お側近く寄ってお目に掛かれて
我が身は我が身かと思って
つねってみる程だ
ああ、美しい、美しい
これを取らせよう
これもあげよう
これこれ
さあさあ
酒を注ぎなさい
またも飲もう
畏れ多いですが
私がお酌をしましょう
ああ、立派だ立派だ
さあさあ
酒を注ぎなさい
年頃の子どもの
お酌の立派なことよ
注いだ酒までも
香ばしい
日頃はそんなに飲まない
私であるが
今日の嬉しさに
重ねて飲もう
さあさあ
注ぎなさい、注ぎなさい
私達まで今日は
嬉しいことよ
花に紛れる
年頃の子どもよ
香りに引かれて
たいそう飲んだことよ
おい、供達よ
またも踊らせよ
もっと見たいものだ
さあさあ、もっと踊って
お目に掛けなさい
莟んでいる花に
近づく蝶
いつの夜の露に
花を咲かせて添うのか
ああ、美しい美しい
おい、供達よ
これも取らそう
さあ、これもあげよう
もっと踊らせなさい
これこれ、またも踊って
御覧に入れなさい
戻れ、はやる心を抑えるのだ
勝連の按司は
誠に名高い
背丈も容貌も
世間の人とは違って立派だ
護佐丸の愛児
知ったか
阿麻和利逃がすまい
朝に夕に
寝ても忘れられない
親の敵仇を
討ち取ったことは
夢であろうか
仇を討ち取った
今日の嬉しさは
亡き父親も
知ると思うと……
ねえ、亀千代
刀は鞘に納め
踊って戻ろう
さあさあ
踊って戻ろう
今日の嬉しさは
何にたとえよう
莟んでいる花が
露に会ったようだ
拍子木
【出典】『校註琉球戯曲集』伊波普著 一九二九年
(台本整理・あらすじ及び訳=大城 學)